「エンパワメント」ということ

 傷ついた内なる子供が回復していくためには、自分の力を自覚することが大 切です。このパワー(力)は自分の短所も長所も正直に認めて、それを肯定す る力のことです。自分の持っている長所を伸ばし、短所を捨てていくパワーが 自分にあることを自覚しましょう。また、色々な出来事において、人のせいに せず、自分が選択する力を持っていることを知ることです。このように本人が 自分の力を信じることが出来るように助けることを「エンパワメント」と呼ん でいます。  援助する人もこのことをしっかりと知っていなければなりません。自分を 頼ってくる人に代わって物事を決定したり、その人が感じるべきことやその人 が取るべき責任を代わって負ってはなりません。それは一時的には頼ってくる 人をホッとさせるかもしれませんが、真の「エンパワメント」になりません。 結局その人の力を奪い、自立を妨げてしまうことなのです。          また、傷ついた「内なる子供」の欠点ばかりに目を留めてしまう援助者や治 療者はわたしたちをおびえさせ、その回復を結局は妨げてしまうことにしかな りません。欠点ばかり指摘されていると、自尊心が奪われ、挑戦に立ち向かう 力がはぎ取られてしまうのです。傷ついた「内なる子供」はまるで援助者の忍 耐力を試すように、同じ失敗を繰り返してきます。それで失敗をとがめるよ り、少しでも進歩した点に目を留めて、また立ち上がるように力づけることを すれば、彼らの中に自分の失敗を受け入れること、自分を許すこと、自分が自 分を励ますことを教えることができるのです。  歩くことを学んでいる子どもを見守る母親は、手を出さず、助けを求めて泣 く声に容易には動揺せず、一歩、一歩、歩けたことに心からの賞賛を送りま す。傷ついた「内なる子供」は自分をそのように見守ってくれる信頼できる人 たちの、その瞳に映る自分の姿を見て、自分を励ます勇気を見いだすのです。 彼らの苦しさに同情するのは良いことですが、助けて上げようとあわてて手を 出し続けると、本人をいつまでも、母親に依存した子どもの様にしてしまいま す。回復するのはあくまでも本人です。愛情を持って見守り、必要な時だけ手 を貸す、そんな勇気が求められるのです。  ですから傷ついた「内なる子供」の援助者は見守るための時間と心のゆとり が絶対に必要です。援助する人は援助する自分自身を見守ってくれる人を持つ ことが必要です。そうでないといつの間にか自分が彼らと共依存の関係に入っ てしまう可能性があるからです。わたしたちも、このことを考えて誰かの援助 を受ける時、その人があなたの成長を見守ってくれる人か、あなたをコント ロール(支配)しようとする人かを見分ける必要があります。一見、親切に見 えて、ただ自分に依存させようとする人たちからは注意深く距離を取るように しましょう。